僕等のエデン
それは些細な好奇心と、ちょっとした憧れ。
私は口にした事が無いソレに挑んでみた、蒸し暑い夏の夜の話しだ。

ふぅと一息ついて見渡した先には、見慣れたはずの私物が今まで無かった場所に置かれている。
不思議な光景だけれど不自然ではない。
今日、私は正式に滝沢くんと2人で過ごすことになった。
同居…ではなくて、同棲…という事になるんだけど…恥ずかしいのが2割であと8割は幸せで埋められてしまう
その幸せを噛み締めるには、引越しという大きなイベントが済んだ今からになるんだろうな。

今度からこの光景が当たり前になって、自然になるんだと思うと嬉しさで胸が躍ると同時に緊張してしまう
私の家が、滝沢くんの家で…滝沢くんの場所が、私の場所になる
そう思うだけで今まで見ていた部屋にグラデーションがかかったように鮮やかで綺麗に見えるなんて、私って現金なのかな

ペタペタとサンダルが階段を踏みしめる音を立てながら、私は生乾きの髪の毛をタオルで押さえて滝沢くんのいる部屋に戻ってくる
ドアを開けた先にも私の家にあった私物がちょこちょこと場所を占領していて、此処にいていいんだ…と安心さえしてしまう
ホッとするような、ドキドキするような感覚を抱きながら、部屋にいる滝沢くんに視線を向けて口を開こうとしたけれど、ふと頭が微かに揺れたのを見て首を傾げた

「滝沢くん…?」

控えめに声を掛けて見るけれど、彼は私の方を振り向くことも無く今度は動くことすらない
不思議に思って足音を立てないように傍に寄ると滝沢くんはソファの背凭れに寄り掛かりながら目を閉じていた
耳に届く安心しきった細い寝息に思わず笑みが零れる
今日の引越しの作業はほぼ滝沢くんがやってくれた。
重いものは私に持たせる事も無く、でも疲れたような素振りも見せず…ちょっと楽しそうだったのを思い出す
今日から一緒に暮らせるって、子供みたいな笑顔で言ってた滝沢くんが可愛くてたまらなかった

「疲れちゃった、よね」
「…んー…」

もぞり、滝沢くんの頭が傾き右側に斜めになると無防備な寝顔が俯く
私はソファの前にしゃがみ込んでその寝顔を見ながら頬杖をつくと、自然と口許が緩んでしまう
ゆっくり寝ていて貰いたいけど、このあとみっちょん達が引っ越し祝いで遊びに来てくれる予定になっている
…時間的にはまだ大丈夫そうだけど……

「…そう、いえば」

“みっちょん達”で思い出す、呼び方
私はいつも“滝沢くん”って呼んでるけど、おネエとかみっちょんは“タッくん”て呼んでるんだよね
実はそれが羨ましくて、一度呼んで見ようと思って「た」までは言えたんだけど…
今更急に呼び方を変えるのも不自然だしなにより私が凄く照れちゃって最終的にはいつもの“滝沢くん”呼びになっちゃったことがある
見つめて見上げていた寝顔を眺めながら、私は口を開く
今なら…呼んでみても、大丈夫かな

真っ直ぐに寝顔を見ながら、跳ね上がってしまいそうな心臓を意識しないように小さく息を吸う
あれ、なんだか口の中が乾いてて少し気持ち悪い…もしかして、緊張してる?

「た…」

また、「た」で言葉が途切れてしまう
最初から“タッくん”は勇気がいる!そうだ…なら普通に滝沢くんって呼んでみて、もしかしたらその後なら言えるかも!
変な緊張が私の中で渦巻いて、今度は深く呼吸をしてから小さく呟く

「たき、ざわくん」
「………」
「滝沢、くん」
「………」
「滝沢くん」

何度も名前を呟いて、囁いて…私の心臓は緊張とは違う不思議な感覚に捕らわれる
暖かい気持ち幸せな気持ち嬉しい気持ち
名前だけで私、滝沢くんが好きだなぁって実感してる

「…たっくん」
「………」

自然と出てきたあだ名に、私は少し驚いて目を瞬かせた
あ、あれ…案外すんなり呼べちゃった……でも、なんだろう…どんな呼び方でも滝沢くんは滝沢くんなんだよね
それに、滝沢くんって、私だけしか…呼んで無い、もんね

「咲ぃー?いないのー?」
「!えっ…嘘…もうそんな時間!?はぁーい!今行くー」

階下から聞こえたみっちょんの声にびくりと肩が揺れる
時計を見れば待ち合わせていた時間で私は慌てて立ち上がると、まだ寝ている滝沢くんにもう一度視線をむけた
さらさらの真っ黒な髪に一度だけ指を通してから小さく小さくいつも通り名前を呼んで、私は椅子に掛けてある薄手の上着を羽織って階段を下りていく
冷房の効いた部屋だったのに、私の身体はやけに熱くて…少し、心地良かった。

・・・

階段を下りていく小さな足音と明るい声
それが遠くなって行くのを確認しながら目を開けて俺は咄嗟に頭を抱えた
なんだ、今のはなんだったんだ!咲が、俺のこと“タッくん”って!“タッくん”って!!
寝たふりができて良かった、そうじゃなきゃ今頃ぎゅうぎゅうに抱き締めて下の奴らそっちのけでイチャイチャしてたっつーの

顔が熱い、絶対今…耳まで赤い
俺は頭を抱えて「あぁー…」と呻きに似た小さな葛藤を巡らせてソファに寝そべる
今日は寝れない自信がある。



幸せとはあなたの名前なのかもしれない

(あれ?タッくんは?)
(疲れて寝ちゃってるみたいなの)
(…へぇ、そうなんだ(本当にそうかなぁ…?))

End
◇ Data memo ( 作者:裡緒 )
時期:劇場版U/After/滝沢帰還後/同棲中
糖度:わからんw
設定:例のお風呂上りw
補足:タッくんと呼ばせたい私の妄想←

『 幸せとはあなたの名前なのかもしれない 』   2010.04.23.

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